― 閑 話 休 題 (症例編 ) ―

 症例7)  非機能性副甲状腺嚢腫

 40歳台の女性が嚥下時の違和感で受診されました。 前頚部に腫瘤が触れ、胸部レントゲンでは、気管が左方へ偏位し、右上縦隔の拡張も認められました。

 甲状腺エコーを施行しますと、右甲状腺の下方に大きな嚢胞が認められました。


 甲状腺嚢胞と考えましたが、症状を伴うため、とりあえずは、穿刺廃液して、軽快するかどうかを確認しようと思いました。

 ところが、廃液されたのは、まさに”水”だったのです。 これには驚きました。
まず、甲状腺嚢胞であれば、チョコレート色のやや泥状な液体が廃液されるものです。 当然そのような液が吸引されるものと思っているところに”水”が吸引されてくるのですから。

 腎臓の嚢胞や、火傷の水泡でも、中味は尿や血漿成分ですから、多少、黄色を呈しています。 体内でこのような”水”を産生するのはどこでしょうか?
 
 この部位でということであれば、真っ先に、”唾液”を考えました。 ”顎下腺嚢胞?”・・・・・ しかし、場所が甲状腺より下で、上縦隔に位置するというのは、常識的には考えられません。 ”異所性唾液腺”というのはあっても良いとは思いますが。

一度みたら忘れない。 
しかし、滅多に遭遇しないのではじめは病名すらわからない。

 病院の耳鼻咽喉科を紹介し、MRIやCT検査の結果、副甲状腺嚢腫と診断されました。 場所的に、副甲状腺であれば何の不思議もありません。

 ただ、一点、”副甲状腺嚢腫”の穿刺液が”水”のような液体であるかどうかを知っているかいないかのことだけです。

 私は、今回初めて知りました。 耳鼻咽喉科では時々遭遇するようで、内科医師が遭遇する頻度よりは多いようですが、数年前の学会発表の抄録をみても、一例報告されているぐらいですから、珍しい疾患のようです。


 穿刺液のカルシトニン濃度(副甲状腺から出るホルモン)を測定すれば、高値であることも診断の決め手になると文献上記載がありましたが、残念ながら測定はしませんでした。 当然のことながら、唾液腺由来のものではなかったので、アミラーゼなどは上昇しておらず、穿刺液も無色透明・・・当然細胞診を検討できるような細胞の検出も認めませんでした。

 この症例は、一度経験すれば、一生忘れないでしょう。 病気そのものは手術にしろ、PEIT(穿刺廃液後にエタノールを注入して癒着させる治療)にしろ、さほど予後の悪いものではありません。 

 医師も患者さんからいろんな病気を教えてもらったり、経験させていただいたりして、研鑽していきますが、今回も貴重な症例ありがとうございました。

非機能性副甲状腺(上皮小体)嚢腫

 頚部腫瘤として、副甲状腺嚢腫が発見される頻度は、それほど低くはないが、遭遇する可能性は少ない疾患である。
 楕円形の比較的大きな腫瘤として発見される。
 内部エコーは、ほとんど無エコーで、実質部分はほとんど認めない。
 甲状腺左下極に好発する。
 甲状腺シンチによる取り込みは認めない。
 穿刺液が無色透明であることが特徴。
 穿刺液内の副甲状腺ホルモン(PTH-C)を測定すると高値である。



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