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本文へジャンプ 平成19年1月1日 
             

 



― 閑 話 休 題 (症例編 2) ―

 症例2) インスリノーマ  

某年7月 1人の女性が当院内科を受診されました。

主訴は、買い物中に意識消失を起こしたとのことでした。

数年前から、意識消失発作が何度か認められて、その時の血糖値が 「30 mg/dl」 程度と異常に低いことを別の医療機関で指摘されながらも、原因は不明で、かつ、精密検査も勧められずに今日まで来たとのことでした。

腹部エコー検査も2回施行したそうですが、異常がなかったとのことでした。


意識消失を起こす原因は多々ありますが、低血糖が原因である第一候補の疾患は、”インスリノーマ(インスリン産生腫瘍)”です。

この”インスリノーマ”という病気は、医師なら誰でも知っています。
超有名な病気で、医師国家試験でもよく出題される疾患です。
但し、頻度は極めて少ないので、その医師一生涯の診療で、経験するかどうかわからない程度のものです。

私も、低血糖という状態はよく見かけ、その都度、”インスリノーマ” を疑ってはみますが、外れてばかりでした。

しかし、今回のケースは、”インスリノーマ” を強く疑いました。

ここでのポイントは、その低血糖が”意識障害”を起こしているということです。
単なる低血糖では、自律神経症状(冷汗,蒼白,動悸,震え)などが出現しても、血糖を上昇させるホルモンが分泌されて、意識消失に至ることはほとんどありません。

そして、”インスリノーマ” を疑ったときに、それを確信する決め手は、”膵臓に腫瘍”が見つかるかどうかということです。
かつて、別の医療機関で2回エコーを行って、異常がなかったといわれています。
(おそらく、前医も”インスリノーマ” を疑って検査をしたものと思います。)

今回も、果たして、異常はないのでしょうか?
不安と期待をこめて、当院で施行した結果、なんと「膵臓に腫瘍」が見つかったではありませんか!。

おそらく、腫瘍の大きさ自体は、以前と変わりがないものと思います。

では、今回どうして当院で見つけることができたのでしょうか?。
当方の腹部エコー検査の技術的腕前がよかったのでしょうか?。
そうかもしれませんが、それよりは、むしろ、”インスリノーマ” が存在するのだという確信と、どうやっても探すという執念の差が出たものであると思います。

その後、膵臓をターゲットとした造影CTを施行し、造影効果のある 1cm大の腫瘍が確認され、更に、サンプリング試験でインスリンが分泌されていることが証明され、”インスリノーマ”と確定診断されました。 
(この検査は、他の専門医療機関を紹介して実施されています。)


私も、この方が、検診目的で、当院を受診され、腹部エコー検査をされたとしたら、「膵臓の腫瘍」 を見つけ出すことができたかどうか自信がありません。

つまり、”インスリノーマ”を発見するためには、その意識を強くもって検査に望む必要があるのです。
これは精神論を説いているのでありません。 
腹部エコー検査というものはそういうものなのです。

当院では、腹部エコーでの精密検査を診療中に施行することは滅多にありません。

例えば、 腹痛で来られた患者さんに対し、
@ 胆石発作か?
A 尿路結石がないか?
B (下腹部痛なら) 前立腺が腫れていないか?
C 膀胱に尿が溜まっているか?
D 腹水がないか? 
など限られた目的のみに施行することはあります。

しかし、、
慢性肝炎の方で、肝臓に癌ができていないか? 
膵臓に腫瘍ができていないか?
などを検査目的とする場合は、施行医の方も時間的な余裕を持って、丁寧に描出する必要がありますから、必ず、診療時間外に行っています。


”インスリノーマ” の教科書的記載は、下記に示しています。
しかし、教科書どおりにならない場合が多いものです。

この方も、実際、空腹時血糖は、41 mg/dl と低いものでしたが、空腹時インスリン値は 5.7 μU/ml と決して高くはありません。

インスリン値が高くないから”インスリノーマ”ではないなどと考えていては、発見できません。


貴重な症例に出会うことは、自分自身の研鑽にもなり、自信にもなります。
そういった意味では、こういう方と巡り合えたのは、当方にとってラッキーでもありますし、”見逃していただいた先生”にも感謝しなければなりません。

インスリノーマの説明

〔頻度〕
発生頻度は約100万人1人。
男女比 1:1.5 と女性にやや多く,40〜60歳に好発。

〔病態〕
膵β細胞由来のインスリン産生細胞が腫瘍化したもので,自律的にインスリンを分泌する。
腫瘍の80%は 2cm 未満である。

〔臨床症状〕
早朝空腹時に、発汗,蒼白,動悸など交感神経刺激症状が出現する。
稀に、複視,霧視,傾眠,錯乱,異常行動,意識消失,痙攣発作などが出現する。
低血糖が続くと,性格,人格の変化,記銘力低下,片麻痺,運動失調,失語症などの不可逆的な障害が現れることがある。
糖の摂取により、症状は急速に改善する。
過食になり,体重増加をきたすことがある。

〔検査所見〕
空腹時,運動時の低血糖発作: 血糖値 50mg/dl 以下。
糖分の補給で症状が改善する。
発作時の血中インスリン値が高い: 40μU/ml 以上であればインスリノーマを疑う。
腹部超音波,腹部CT,選択的動脈撮影で腫瘍の局在を診断する。

〔治療〕
外科的切除が原則である。
悪性腫瘍の転移例や切除不能例では、ストレプトゾトシンや 5-フルオロウラシル(5-FU)などの化学療法薬を投与する。
ジアゾキシド、ソマトスタチン誘導体などの内分泌療法も試みられる。

〔参考文献〕  今日の診療プレミアム Vol.15




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症例のエコー
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